牛の脂肪も含め、油脂と呼ばれるものの構造は基本的に同じで、
グリセリン(グリセロールとも言いアルコールの一種)に脂肪酸が結合したものでできています。
グリセリンは脂肪酸と結び付く「手」が3つあるので、
脂肪酸が3つ全部結び付いている時が最も安定しており、
自然界でも大部分を占めています。
これが「中性脂肪」です。
脂肪酸は、数個から30個くらいの炭素原子(C)が、鎖のように結び付いてできています。
この炭素原子は4つの「手」を持っていて、そのうち2本の手が水素原子(H)とつながり、
残りの2本が他の炭素原子とつなぎあって鎖状になっているのです。
このように水素原子と炭素原子がすべて結びついている場合には「飽和脂肪酸」といいます。
また、炭素原子が水素原子と結びついていた2本の手のうち1本から水素原子を離してしまい、
その手で炭素原子同士がつながりあっているもの(二重結合)を「不飽和脂肪酸」といいます。
二重結合が1個のものが1価不飽和脂肪酸で、2個以上のものは多価不飽和脂肪酸です。
結びついている炭素原子の数は脂肪の融点を高くする方に影響し、
二重結合の数は融点を非常に低くする方に影響します。
牛の脂肪を構成する主な脂肪酸は、1価不飽和脂肪酸のパルミトレイン酸・オレイン酸、
飽和脂肪酸のパルミチン酸・ステアリン酸があり、
多価不飽和脂肪酸のリノール酸なども少しあります。
なお、体の部位によって脂肪の質は違っていて、体の外側にいくほど柔らかい傾向があります。
皮下脂肪と比較すると腎臓を取り巻いている腎脂肪(すき焼きなどで鍋に脂を引く時に使う脂)は
固いと感じるように、脂肪酸組成も違っています。
松阪牛となる黒毛和種は、個体差はあるもののホルスタインなど他の品種に比べて
不飽和脂肪酸の割合が高く、脂肪の融点が低いことがわかっています。
これが、本文に上げた「とろけるような味」「滑らかな舌ざわり」の理由ですが、
それだけでなく、健康面からも重要な意味があります。
品種 | 部位 | 組織 | 飽和脂肪酸割合(%) | 不飽和脂肪酸割合(%) |
---|---|---|---|---|
松阪牛 | かた脂身 | 皮下脂肪 | 30.6 | 69.4 |
黒毛和種 | かた脂身 | 皮下脂肪及び筋間脂肪 | 34.9 | 65.1 |
乳用種 | かた脂身 | 皮下脂肪及び筋間脂肪 | 42.49 | 57.51 |
輸入牛 | かた脂身 | 皮下脂肪及び筋間脂肪 | 50.64 | 49.36 |
今、日本人の脂肪の摂取量の増加傾向が問題になっていますが、
最近の研究の結果からは、脂肪の種類、
すなわち脂肪酸の種類が問題なのだということがわかってきました。
脂肪は、量より質を考えて食べる時代になっています。
飽和脂肪酸の過剰摂取は血中コレステロールの増加を招きます。
欧米型の食生活では飽和脂肪酸の摂取量が多く、
動脈硬化などの心臓疾患多発の原因の一つと考えられています。
不飽和脂肪酸にはコレステロール低下作用のあることが知られていますが、
特に1価不飽和脂肪酸のオレイン酸は悪玉コレステロールのみを下げると言われています。
また、1価不飽和脂肪酸は発ガンの恐れのある過酸化脂質を作りにくく、
加熱調理でも酸化しにくいという特徴もあります。