ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ

本文

松阪もめん

ページID:0144945 更新日:2023年10月10日更新 印刷ページ表示

粋好みの江戸の人々を虜にした「松阪嶋」

松阪もめん

松阪もめんとは、本藍染めの糸を使い、「松坂嶋(まつさかじま)」と呼ばれる縞模様が特徴の松阪地域で生産される綿織物です。

今でこそ、東京で「松阪もめん」を知る人は少なくなりましたが、江戸時代、江戸のまちでは松阪もめんが大流行していました。
倹約令によって華美な着物を堂々と着られなかった環境で、木綿でありながら粋を感じる、松阪もめん特有の「松坂嶋」と呼ばれる縞模様が、粋好みの江戸の人々を虜にしたのです。
今でも歌舞伎役者の間では木綿の縞を着ることを「マツサカを着る」と言うそうです。

特別インタビュー 松阪もめん手織りセンター 田中 茂子さん

tanakasan

「このあたりには川がたくさんあり、土地がとても肥沃なんです。だから質のいい綿が採れる。粋でおしゃれなだけでなく、品質がよく、安くて丈夫。だからこそ、江戸の人たちはこぞって松阪もめんを着たのだと思います。江戸の人口が100万人と言われていた時代に、年間50万反以上の松阪もめんの反物が江戸に運ばれたという記録も残っています。それほどの大ブームだったようです」と、松阪もめん手織りセンターの田中茂子さんが話してくれました。

美しいだけじゃない、本藍染のさまざまな効能

松阪もめんの特徴の1つは本藍染めの糸を使っていること。
藍の染料が入った甕に糸を漬け、引き揚げて空気に触れたときに発色します。
これを何度繰り返すかによって色が変わり、その濃淡でストライプを作っていくのが「松坂嶋」です。

matsusakamomen

「色にはそれぞれ名前が付いていて、一番薄い色が『甕のぞき』。甕をちょっとのぞいたくらい少し漬けて引き揚げた淡い色です。そこから『浅葱(あさぎ)』、『納戸』と濃い色になっていき、一番濃いものが『紺』。『紺』まで染めるには二十回以上、染料に糸を漬けて引き揚げて、というのを繰り返すんです。色が濃くなればなるほど、藍が糸にしがみつき、丈夫になっていきます。だから剣道着などには『紺』の藍染が使われるんです」(田中さん)。

藍染めには、美しいだけではなくさまざまな効能があるそうです。
その1つが虫よけ。藍の香りがマムシなどの蛇や蚊を遠ざけるそう。また、傷を治す効果もあると言われており、昔、武士が藍染めの肌着を着ていたのは、刀傷を治すためだとも言われています。
「農作業のときに着られる野良着に藍染めが使われていたのは、田植えの頃に出てくるマムシや、夏の時期の蚊を遠ざけるためなんです。また、北海道のアイヌの方にも藍染めはよくご注文をいただきます。『紺』まで濃くそめた藍染めにアイヌの刺繍が映えることももちろんなんですが、虫よけや傷を治す効能があることも、アイヌの方はよくご存じなようです」(田中さん)。

手織りの反物には、織り手の心がそのまま表れる

「今は機械織りのものもたくさんありますが、松阪もめんの特徴は何と言っても手織り。江戸時代には農家の奥さんの女業(おんなわざ)と言われていました。農家の奥さん方が農閑期に織る松阪もめんは、織ったとたんに飛ぶように売れたため、美しい松阪もめんが織れる奥さんは、その家の稼ぎ頭として重宝されたそうです。そのときの技が今も受け継がれています」(田中さん)。

matsusakamomen

織り手の方によって縞の作り方にも特徴が出るため、織りあがった反物を見ただけで、田中さんには織り手の方がわかるそうです。
また、織り手の方の技術の高さによって表面のなめらかさがまったく違うそう。

「縞模様を作っていくことを『縞をたてる』と言います。その縞のたて方が織り手さんによって、その人その人のセンス、特徴が出るんです。だから反物を見ただけで、ああ、あの人らしい縞だな、と感じることも。ひと織りひと織り手作業なので、熟練の方が1日中、機(はた)の前に座っていても織れるのは1~2m。そしていったん立ったり座ったりしてしまうと乱れが出てしまうので、織り手さんの中には、電話が出てもとらない、誰か訪ねてきても立たない、という方もいらっしゃいます。また、心の乱れが織り面(づら)に出てしまうことも。平常心でおだやかな心で織った反物は表面がなめらかでつるんとしているんです」(田中さん)。

変化を楽しみ、育てることを楽しむ、松阪もめん

藍染めは洗うほど、藍の持つ“灰汁(あく)”が抜けていき、きれいな青色になっていきます。
また、最初はノリづけがされておりバリっとした感触が、洗うほど柔らかくなっていくのだとか。

その変化が楽しめるのも松阪もめんの特徴の1つ。
「最初の濃い藍もきれいなんですが、実は藍の染料には灰汁が多く含まれていて、この灰汁も糸に染みています。洗えば洗うほどこの灰汁が抜けて、きれいな青だけが残るんです。わたしは『あか抜ける』という言葉はこの藍染めの灰汁が抜けるところから来ているのではないかと思っています。また、洗うほどどんどんやわらかくなっていくので、その人その人の体に沿っていくようになります」(田中さん)。

matsusakamomen

色の変化、手触りの変化を楽しみ、自分で育てていくことを楽しむことができる松阪もめん。
着物だけでなく、現在は洋服やバッグ、アクセサリーなどが作られ、若い方々にも人気です。

「木綿は寒いときには保温性があり、暑いときには汗を吸って体の熱を外に出してくれる体にやさしい素材。今後はオーガニックコットンを使った、赤ちゃんの肌着なども作りたいと思っています。国内はもちろん、海外の方にも松阪もめんを知っていただきたいですね」と田中さんが話してくれました。


松阪ブランド
特産品・名産品